まだまだ先のことだと思っていたNHKの朝ドラ「エール」が始まって、もう1週間余りがたちました。
大河もそうですが、朝ドラを観るのは何十年ぶりでしょうか。
モデルになった国民的作曲家・古関裕而さんの曲については、このブログを始めたばかりの頃に「オリンピックマーチ」をとりあげましたが、アクセスの少ない「秘境ブログ」(笑)の中で、現在アクセスの最も多いのがその記事となっています。
先月末、何気なしにNHK・FMの番組表を見ていると、「3月28日土曜、午後9時05分~ 午後10時05分、クラシックの迷宮 ▽作曲家・古関裕而のバック音楽集~NHKアーカイブスから~ 」というのがあり、さっそく録音しました。(現在YouTubeで聴くことができます)
解説の片山杜秀さんが、「古関さんはNHKととてもご縁が深く、長年にわたって数多くの曲目を提供されている」と話されていました。
その番組の最後に放送されたのが、この「“ひるのいこい”のための音楽」でした。
片山氏は放送の中で、この曲を「日本的なセミクラシック風の管弦楽組曲」と紹介されていました。
この「ひるのいこい」は、
「NHKラジオ第1、NHK-FM、NHKワールド・ラジオ日本で、年末年始を除く月曜日から土曜日まで、12時台に放送されているラジオ番組。NHK有数の長寿番組で、1952年の11月17日に放送を開始し、今日に至っている。」(ウィキペディア)
ということですから、まもなく65歳になる私などはおそらく生まれた頃から耳にしていたのではないでしょうか。
定年後は、昼食時に聴くことが多くなりました。
テレビが普及する前、昭和30年代の農村の情景を彷彿させる、のどかで和やかなメロディーが、昭和、平成、令和と70年近くにわたって流れているのですね。
そういう昔を知らない若い人たちには、ひょっとして違和感さえ感じられるのではと思うぐらいに、のんびりした曲調です。
この音楽について、『評伝 古関裕而 国民音楽樹立への途』(彩流社、2012年)の著者である菊池清麿氏は次のように分析しています。
「ひるのいこい」の旋律は、生活感情の深いところの関わりで作曲されている。日本が高度経済成長によって機械化の進む農村において、忘れられて行く何かを回想させ、懐かしい記憶を甦らせてくれるような不思議な力を秘めていた。透明度が高いにも関わらず、解放感のあるほのぼのとした旋律の中に深い源を宿していたのだ。(中略)
「ひるのいこい」のメロディーは、生活様式が大変革したとしても、日本人であることを自覚させ、原始的な郷愁を呼び起こす調べである。古関は次のように述べている。
「無数の山、また数え尽くせないほどの幾筋の川、それに湖沼も。町や昔ながらの村もある。人もいる。祭りもある。それらを思い浮かべただけでも、私は私の音楽で満たされる。」(古関裕而『鐘よ鳴り響け』)
古関裕而は、国民的作曲家に相応しく、喜び、悲しみを力いっぱいにぶつける解放性、ほのぼのとした素朴な自然情緒、民族舞踊のリズムに着目し、生の人間性の溢れる感情エネルギーをクラシックの格調のある健康的なメロディーにしたのである。
たしか、古関さんの音楽人生をたどった別の本に、こんなエピソードがありました。
息子さんの作曲した曲を見た古関さんが、「頭で考えて作っているようではだめだ。自分は野山や川の情景を思い浮かべると、自然とメロディーが浮かんでくる・・・」というような内容だったと思います。
まさに作曲家・古関裕而の面目躍如といったところでしょうか。
それにしても、この短い一曲について、これほどの分析、論評ができる菊池氏の筆力には感心させられるばかりです。
昨年あたりから、朝ドラ「エール」の放送開始をあてこんで(?)古関さん関連の文庫や新書が数冊出版されていますが、どれも今から8年前に出た菊池さんのこの本を参考にしています。