思い出の中のあの歌この曲

メロディーとともによみがえるあの頃の・・・

♪ 「海ゆかば」

新保祐司信時潔』(構想社、2005年)の表紙

https://www.youtube.com/watch?v=wXSCoKqy8MI
    演奏:東京音楽学校昭和16年

 前回の投稿から2ヶ月近くが経っていました。
 たまたま、このブログを見られた方の多くには必要のないことかも知れませんが、一応この曲の紹介です。

海行かば 水漬(みづ)く屍(かばね)
山行かば 草生(む)す屍
大君(おおきみ)の 辺(へ)にこそ死なめ
かへり見はせじ
(長閑(のど)には死なじ)

 

海行かば(うみゆかば)は、日本の国民歌謡の一つ、歌曲、合唱曲。特に太平洋戦争中は準国歌、第二国歌とも呼ばれた(ただし、法的に認められたものではない)。
詞は、『万葉集』巻十八「賀陸奥国出金詔書歌」(『国歌大観』番号4094番。『新編国歌大観』番号4119番。大伴家持作)の長歌から採られている。作曲された歌詞の部分は、「陸奥国出金詔書」(『続日本紀』第13詔)の引用部分にほぼ相当する。
この詞には、1880年明治13年)に当時の宮内省伶人だった東儀季芳も作曲しており、軍艦行進曲(軍艦マーチ)の中間部に聞くことができる。戦前においては、将官礼式曲として用いられた。歌詞は奈良時代歌人大伴家持の詞に基づく  (Wikipedia

 

 「思い出の中の~」というブログのタイトルですが、昭和30年生まれの私が、この歌をリアルタイムで聴いたはずはなく、いったい、いつに知ったんだろうと思っていました。
 でも、よくよく考えると、学生時代に映画館で観て、近年ではAmazon Prime Videoでも視聴した映画トラ・トラ・トラ!(Tora! Tora! Tora!、1970年)の一シーンで知ったのではないかと思うようになってきました。

映画「トラ・トラ・トラ!」より
https://www.nicovideo.jp/watch/sm27912880

  映画の冒頭で山村聰が扮する山本五十六中将の連合艦隊司令長官就任式の場面で海軍軍楽隊が将官礼式曲として、この海ゆかばを演奏しています。

 ドイツ音楽風の重厚なハーモニー、格調高い曲調などから、戦前の日本にもこんな曲を作る人が居たのかと、作曲者の信時潔に興味をもち、これは後年のことですが、新保祐司信時潔』(構想社、2005年)を買って読んだり、CD「海ゆかばのすべて」(キングレコード、2005年)を繰り返し聴いたりしていました。
 さらに近年は、すっかりYouTubeオヤジ(ジイジ?)」になって、CDにはなかった様々な演奏を聴くようにもなりました。

 

信時潔(明治20~昭和40年、1887―1965)
作曲家。大阪生まれ。東京音楽学校でチェロと作曲を学び、1910年(明治43)卒業後さらに研究科を修了して、20年(大正9)ドイツに留学、作曲をゲオルク・シューマンに師事。帰国後母校の教授を務めた。42年(昭和17)芸術院会員、63年(昭和38)文化功労者。作風はドイツの古典的手法による堅実で荘重なもので、『木の葉集』(1934)などのピアノ曲『沙羅(さら)』(1935)、『やまとには』(1939)などの歌曲や合唱曲が多い。紀元2600年記念祭で初演された交声曲『海道東征』(1940)は、日本人の手になる本格的なカンタータとしてしばしば演奏され、また大伴家持(おおとものやかもち)の歌詞による合唱曲海ゆかば』(1937)は第二次世界大戦中によく歌われた。(コトバンク

 

 先の大戦中においては、この曲がNHKのラジオ放送で、大本営発表の冒頭に流されたことから、悪夢のような時代を想起させるシンボルの一つとして、GHQの命令もあってのことでしょうか、戦後は事実上封印されてしまいました。

 


 
 希代の名曲「軍艦行進曲」はパチンコ屋からよみがえり(笑)、公式行進曲として今でも海上自衛隊のイヴェントでは必ず演奏されますが、こちらは歌詞の内容もあって、この曲のことを云々すると、まちがいなく「右翼」のレッテルを貼られてしまいます。

 ただ、冒頭にも書いたとおり、メロディーとハーモニーは、「あの時代にこんな曲を書ける作曲家がいたのか!」と思わされるほどの強いインパクトが、私にはありました。
 ある批評家の文章ですが、「ハーモニーの美しさによる精神性の発露の最上例」という表現が「言い得て妙」と思い、引用しました。

 「海ゆかば」と、バッハなどの宗教作品のコラールとの近似性はよく指摘されるところだが、「君が代」が洋楽的なハーモニーを拒絶しているのに対し、「海ゆかば」は、まさにハーモニーの美しさによる精神性の発露の最上例と言って良い名作である。曲最後に響くハ長調の純正和音の、なんと心に響く事だろう。
  「日本の作曲家たち/16 信時潔」   http://www.medias.ne.jp/~pas/nobutoki.html

 

 この曲の演奏者としては、伊藤久男さんが一般にはよく知られていますが、今回は音源は古いものの、当時の雰囲気をよく伝えていると思われる東京音楽学校(現・東京芸術大学音楽学部)生徒によるものを選びました。