思い出の中のあの歌この曲

メロディーとともによみがえるあの頃の・・・

♪ 「椰子の実」~いづれの日にか国に帰らむ

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椰子の實     
 作詞:島崎藤村 作曲:大中寅二
1
名も知らぬ遠き島より
流れ寄る椰子の實一つ
故郷(ふるさと)の岸を離れて
汝(なれ)はそも波に幾月

2
舊(もと)の樹は生ひや茂れる
枝はなほ影をやなせる
われもまた渚を枕
孤身(ひとりみ)の浮寢の旅ぞ

3
實をとりて胸にあつれば
新(あらた)なり流離の憂(うれひ)
海の日の沈むを見れば
激(たぎ)り落つ異郷の涙

思ひやる八重の汐々(しほじほ)
いづれの日にか國に歸らむ

 

歌詞の意味(現代語訳)
1

名前も知らない遠い島から
流れてきた椰子の実が一つ

故郷の岸をはなれて
おまえはいったい何ヶ月の間
波に流されてきたのか

2

椰子の実が成っていた元の木は
今も生いしげっているのだろうか

枝は今もなお
影をつくっているのだろうか

わたしもまた 波の音を枕に
一人寂しく旅している

3

椰子の実を胸に当てれば
さまよい歩く旅の憂いが身に染みる

海に沈む夕日を見れば
故郷を思い あふれ落ちる涙

遠い旅路に思いを馳せる
いつの日か故郷に帰ろう

(「世界の民謡・童謡」ホームページ)

 

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「椰子の実」歌碑:愛知県田原市日出町

 

 島崎藤村明治34年の昔出した詩集『落梅集』の中に載っている詩に大中寅二が国民歌謡の一曲として新たに作曲したもの。 国民歌謡のうちの最も広く愛され歌われた曲をこの曲と見ることに異存はないであろう。昭和11年7月13日から1週間東海林太郎によってJOAKで放送された*のがはじめで、以後、8月3日から二葉あき子により、11月9日から多田不二子により、12月9日から柴田秀子により放送された。(中略)レコードでは11年11月、ポリドールから東海林太郎が吹き込んで売り出された。(中略)今、伊良湖岬には、この詩の詩碑がある。(金田一春彦安西愛子編『日本の唱歌[中](大正・昭和篇)』講談社文庫、昭和54年7月15日第1刷発行)

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*NHKアーカイブズ「NHK放送史」に映像があります。
 https://www2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009060039_00000

 好きな日本歌曲はたくさんありますが、その中でベスト5に入ると言ってもいいのが、この「椰子の実」です。
 実際に歌ったのは、林光編曲の混声合唱組曲「日本抒情歌曲集」でした。独唱となると、いきなり1、2小節目から音程の跳躍があって結構難しい曲ではないかと思います。

 今回は、詩の締めくくりのフレーズ、いづれの日にか國に歸らむ」の意味を取り上げました。
 明治の文語詩ですから、見慣れない言葉も多く、少しは文語文法や古語の知識もないと正確な理解は得られないかと思います。
 とりわけ、いづれの日にか國に歸らむ」の解釈については、「yahoo知恵袋」にも質問がありましたが、ネット上で得られた訳には、「?」と思わせるものがあります。

 それらの解釈は「いつの日か故郷に帰ろう」世界の民謡・童謡」ホームページ)としています。
 NHKさんの教材用のホームページも同様です。

椰子の実が流れてきたはるかな潮(しお)の流れを思うと、わが身の人生の遠い道のりも思いやられる。いつの日にかふるさとに帰ろう」。(NHK for school「文語詩:椰子の実・おはなしのくにクラシック 」)
 https://www2.nhk.or.jp/school/movie/outline.cgi?_id=D0005150182_00000

   ここで、気をつけたいのはいづれの日に國に歸ら」、「~か~む(ん)」の係り結びです。
   上のような解釈では係り助詞「か」の働きが無視されており、「む」という助動詞の文法的意味を「意志」としています。
  ここは、やはり次に挙げるようなとりかたをすべきではないでしょうか。
 

いづれの日にか国に帰らむ……「か」は、疑問の意の係助詞。「む」は、推量の助動詞「む」の連体形。「か」の結び。「いつになったら、なつかしい故国に帰ることができるのだろうか」。  「小さな資料室」http://sybrma.sakura.ne.jp/

 
 付け加えて言うならば、「か」には「疑問」+「反語」のような意味合いもあるのではないでしょうか。

    つまり、「いつになったら、なつかしい郷里に帰ることができるのだろうか(いや、帰れないかもしれない)」ということです。

 「故国」というと、「かえり船」ではありませんが、外地にいる日本人が日本の国を思うというような捉え方になる恐れもありますので、ここは「郷里」としました。

 

※何気なく聴いたり歌ったりしている歌詞の中にも、前々からちょっと気になるというフレーズがあります。今回はそんな歌の一つを取り上げてみました。